第一章

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 翌日、また塾までの空いた時間にあの公園へと足を運んだ清水は、ハタと気付いて足を止めた。 「何でここに来ちゃうんだ……」  家に帰ってからもずっとあの男の事ばかり考えて、今日は授業中だって上の空で、気が付いたらこの公園に向かって歩いていた。  清水の学校からは二駅ほどある団地前の公園は、不審者が出ると言う噂が立って以来めっきり人の気配が無くなった。  学校の奴らに会うのが嫌で、学校の近くの大きな進学塾に通うのを拒否って無理矢理こんな辺鄙な所にある個人経営の塾に通わせて貰っている。  駅から歩いて徒歩十分くらいの所にあるこの公園を見付けてからは、塾の時間までここで時間を潰す事が多かった。  中高一貫して時間ごとに割り振られ、教師陣は男二人と事務の女性が一人。  小さな塾ではあるけれど、先生が若くて結構人気がある。  地元の中高生に交じって勉強するのは少し浮いている様な気もするけれど、物珍しそうに見て来る奴らは遠慮して喋りかけて来る事もないので、案外集中して勉強出来ていた。 「来るわけないか……」  何を期待していたのだろう。  もう一度会った所で、何を喋って良いかも分からないと言うのに、足が勝手にいつもの習慣でこの公園に向かっていた。  でもだって、仕方ないだろう?  風邪引いてないかとか、もしかして帰ってから親に叱られたんじゃないかとか、元はと言えばすんなりノートを渡さなかった彼が悪かったとしても、あのノートを取りに行ってくれたのは、自分の為であって――――。  そこまで言い訳を脳内再生して、清水は勢いよく立ち上がる。 「い、いやいやいやいや……これじゃまるで、僕があの男を気にしてるみたいじゃないか」  あの男の事を考えるだけで動悸が忙しなくなるし、これはもう会ったら会話にならないと思い直して、清水は塾へと向かった。  少し時間は早いけど中で待たせて貰えば良いし、ウッカリあの男がここに現れたら、挙動不審になりそうだ。
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