第一章

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 駅の近くにある“巽塾”は生徒の人数はそんなに多くない。  だけど今年から早い時間には小学生のコースも始まって、この時間は中学受験の為に勉強させられている小学生が煩い位だ。 「こんにちわぁ」 「あら、黒川くん。今日は早いわね」  まるで病院の待合室の様な塾の入口には、いつも真田と言う女性がいて塾生を迎えてくれる。 「あぁ、はい。少し学校早かったんで……」 「そっか。じゃあちょっとその辺で待っててね。まだ小学生と中学生のクラス終わってないから」 「あぁ、はい……」  コーナーソファに腰を下ろして、壁に貼ってある校外模試のスケジュール表をぼんやり見ていた。  試験、試験、試験、試験。  試されてばかりの人生の先にあるのは、人が羨む様な金と地位とが用意されていると親は信じて止まないけれど、清水にはそんな物より欲しいものがある。 「んじゃ、次なー。空欄に当て嵌まる整数を求めなさい。これ分かるヤツいるかぁ? つーか、整数の意味わかるかぁ?」  聞き覚えのある声だった。  教室のドアのガラス越しに中を覗いてみると、昨日の男が教壇に立っている。 「はっ? 何? って言うか、昨日学ラン着てたじゃん……え、兄弟?」 「あぁ、彼は(たつみ)先生の息子さんよ」 「さ、真田さんっ」 「シー! 静かに! 小学生は集中力切れやすいんだから、大きな声出さない!」 「あ、すいません……」 「本当は今日、伊勢谷(いせや)先生が担当するハズだったんだけど、ちょっと急用で急遽代打で来てくれてるのよ」 「で、でもあの人……僕と同じくらいの歳じゃないんですか?」 「あぁ、そうね。確か高校二年生だから、黒川くんと同じ歳だわ」 「なのに塾の講師とか出来るもんなんですか……?」 「まぁ、バイトだしこの一限だけだから……。家庭教師みたいなもんだと思えばさ。それに、彼自身は相当頭良いみたいだしね」  でも昨日会った時は、名前さえ書ければ入れる偏差値底辺の学校の制服を着ていた。  そんなに頭が良いのに、何であんなバカ学校に行っているのか。清水は首を傾げる。
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