第一章

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「何、士朗くんと知り合いなの?」 「士朗くん?」 「何だ、名前も知らないの?」 「あぁ、別に知り合いってほどでもないんで……」 「見学してても良いけど、煩くしちゃダメだからね」  真田はそう念を押して次の教室の準備へと向かう。  巽士朗(たつみしろう)。それがあの男の名前だった。  つまらなさそうに黒板に問題書いては、ゆるゆると子供達に回答を書かせて、怒るでもなく持ち上げるでもなく、淡々と授業を進めている。  扉の窓ガラスからチラ見していて、ふと目が合った。 「うわっ、こっち見た……」  授業終了のチャイムもどきが鳴って、一斉に子供達が教室から飛び出して来る。   「シロー先生、さようならぁ」 「おー、気ぃつけて帰れよー」 「シロー先生、彼女いんのー?」 「いねぇわ。いたらお前らの勉強なんか見てやるか」 「ははっ、ドーテーだっ!」 「ちげーし。お前らに言われたくねぇわ」  童貞じゃないのか。  いや、違う。そうじゃないだろ。  顔つきが怖くないからか、子供には好かれるらしい。 「あんた昨日の……覗きが趣味なのか?」 「ち、ちがっ……」 「相変わらずマスクして、顔、全然見えねぇんだけど……?」  清水は伺う様に士朗に覗きこまれて、思わず一歩下がった。
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