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「何、士朗くんと知り合いなの?」
「士朗くん?」
「何だ、名前も知らないの?」
「あぁ、別に知り合いってほどでもないんで……」
「見学してても良いけど、煩くしちゃダメだからね」
真田はそう念を押して次の教室の準備へと向かう。
巽士朗。それがあの男の名前だった。
つまらなさそうに黒板に問題書いては、ゆるゆると子供達に回答を書かせて、怒るでもなく持ち上げるでもなく、淡々と授業を進めている。
扉の窓ガラスからチラ見していて、ふと目が合った。
「うわっ、こっち見た……」
授業終了のチャイムもどきが鳴って、一斉に子供達が教室から飛び出して来る。
「シロー先生、さようならぁ」
「おー、気ぃつけて帰れよー」
「シロー先生、彼女いんのー?」
「いねぇわ。いたらお前らの勉強なんか見てやるか」
「ははっ、ドーテーだっ!」
「ちげーし。お前らに言われたくねぇわ」
童貞じゃないのか。
いや、違う。そうじゃないだろ。
顔つきが怖くないからか、子供には好かれるらしい。
「あんた昨日の……覗きが趣味なのか?」
「ち、ちがっ……」
「相変わらずマスクして、顔、全然見えねぇんだけど……?」
清水は伺う様に士朗に覗きこまれて、思わず一歩下がった。
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