金曜の湯

1/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

金曜の湯

その日は星空の良く見える金曜日だった。 私はようやく仕事を終え、会社から家に向かって歩いていた。 時刻は既に11時を回っており、私が普段乗っている電車はもう行ってしまった。 そのため私は、1週間の疲れを携えたままで会社から家まで徒歩20分の道のりを歩いていた。 辺りを包む静寂。 その中で響くのは私のカッ、カッ、というヒールの音だけだ。 しかし、不意に「カコーン」という、桶が床とぶつかった時の音が複数聞こえた。 一般家庭では考えられない音の数から私は不思議に思い、その音の元を辿ってみた。 するとそこには、今まで1度も見たことがない銭湯があった。 「金曜の湯」 そう書かれた銭湯は、都内にあるとは思えない、異様な空気を放っていた。 煌々と電気がついているわけではないのに、不思議と辺りが眩しく感じ、とてもきになる。そんな雰囲気だ。 私は気になって行ってみることにした。 入ってみると、中には誰もいなかった。 でも、誰かがいる気がする。 そう考えていると、番台から声をかけられた。 ……誰もいないはずの番台から。 「おんやぁ、お前さん……さては人間だね?」 ……おかしい。     
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!