一話 「二人の放課後」 前

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埃をかぶったファイルが並ぶ本棚と、紙やペンが乱雑に置かれている机。その2つに挟まれた狭いスペースに健二は今日もあぐらをかいて座っていた。 「お、今日は早かったな。」 そう言うと健二は本棚に立てかけてある壁掛け時計に目をやった。時刻は四時十分。いつもより五分ほど早いだろうか。 お前はいつも俺が来るまでずっとそこで座って暇を持て余しているのか、と問い詰めたい気持ちはあったが、とりあえず今は持っている重い荷物を下ろしたい。俺は何も言わずに、背負っていた通学カバンを机の上に下ろした。ドスン、と怪獣の足音のような音が狭い部屋に響く。 ああ、やっと肩が軽くなった。ふう、息を吐き、両肩を回した。骨がコキコキと音を立てる。 ふと前を向いてみると、健二は立って窓の外を見つめていた。壁の一面を占める大きな窓は、五帖ほどの窮屈な室内に申し訳程度の開放感を与えてくれている。 窓の外では、野球部がランニングを始めているようだった。部員はそこまで多くないが、勢いのあるかけ声はこちらまでよく聞こえてくる。これも、厳しい生徒指導の先生が顧問を担当しているからだろう。 俺は壁と机の間をすり抜け、健二の横に立って同じように窓の外の景色を見つめた。 グラウンドでは野球部が円を描くように走っていて、その横では陸上部、テニス部などがアップを始めていた。遠くにそびえ立つ山はまるで原色のようにはっきりした緑で染められ、空は雲一つない快晴に恵まれていた。 まだ七月に入ったばっかりのこの時期、四時の太陽はまだ沈まず、地上の夏真っ盛りの景色をこれでもかと言わんばかりに照らしていた。
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