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一話 「二人の放課後」 中
隣の健二はその景色を遠い目で見つめていた。多分、自分が陸上部に入っていた頃の事を思い出しているのだろう。
「ノスタルジックな顔してんなあ。やっぱ思い出すんだ?」
「そりゃ思い出すよ。あーもうなんで怪我なんかしちゃったんだろ。」
健二は窓の外を見たまま、でかいため息をついた。やはり、怪我をして陸上部を退部したのを後悔しているのだろう。
「怪我が治ったらまた練習できんのにさ、なんで止めちゃったの。」
「だってお前、全治二ヶ月だぜ? 治った頃には周りとすげえ差ついちゃったし。やる気起きねえよ。」
健二は口をへの字に曲げて、俺の方をむいた。もう復帰を完全にあきらめているようだ。
「まあでも、確かに後悔はするよな。だって……」
とたんに健二の眼孔がぐわっと開く。その話をするな、という思いが俺にも伝わってきたが、そんなものはどうでもいい。
「だってお前、階段から転げ落ちて骨折だもんな。」
まずい、笑いがこみ上げてくる。
「その話をすんじゃねえ!」
健二の叫びは野球部のかけ声をかき消して、そのまま「うおおおお!」と俺に飛びついてきた。さすが元陸上部、それなりの腕力がある。
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