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甘いささやき
「千里ちゃんお疲れ様」
「お疲れ様です莉乃さん。今日は副社長と楽しんでくださいね」
「千里ちゃんも3次元の男の人に目をむけなよ?」
秘書課の先輩の莉乃さんは綺麗な微笑みを浮かべて帰っていった。
3次元の男の人……ね。
そう言われたばかりだけど、鞄の中から携帯を出し乙女ゲームを開いてつい呟いていた。
「秀哉君とバレンタイン……」
晃君とは私がはまっているゲームの中の彼。
「遠藤!ちょっと」
いきなり聞こえた自分の上司の声に、私はびくりと飛び上がりそうになった。
佐伯祥平 私の担当で10歳年上の33歳。
新卒で入ったこの会社で、初めて私が担当した役員。
副社長の先輩で、周りからの信頼も厚いそんな人の担当なんて、最初はとんでもないと思った。
一回り近くも違うし、いつも隙が無くて完璧で。
おまけに外見も2次元みたいにカッコよくて……。
そんな人が目の前にいたら私はパニックを起こしそうだった。
そして、私みたいな現実を生きていないような、勉強だけが取り柄の、地味な人間がこんな人の隣にいていいの?そんなことすら思っていた。
でも……。
2次元の人しか興味の無かった私が、初めて本物の男の人を意識した。
でもどうしていいのかなんてわからない。秀哉君は向こうからグイグイ来てくれるし。
だいたい専務の甘い雰囲気なんて想像できない。
今日も受付の女の人が撃沈したって噂になってたっけ。
そんな事を考えながら、いつものように専務の背中を見つめた。
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