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「准一さん、病院連れてってください」
夏帆が言った。
ついに来たかと思った。
「この本、四冊目でした。私おかしいみたいです」
夏帆は料理本を三冊テーブルに並べ、鞄から今日買ってきたばかりの本を取り出す。計四冊、全て同じ本だった。
進行を抑える薬を処方してもらった。
根本的な治療法は未だにない。そんなことは医者から説明されるまでもなく、おれも夏帆もわかっていた。伊達に医療系学部を出てはいない。
「こんなことになっちゃってすみません。てか今までも色々やらかしてたんじゃないですか? 私が気づいてなかっただけで」
夏帆が布団の中で言った。
「いや? 夏帆はちゃんと夏帆だった」
開けてくれた布団の左側に潜り込む。付き合い始めのころから、おれたちは一緒の布団で寝ていた。
夏帆がおれの右腕に触れた。
「……ごめんなさい」
夏帆が謝ることじゃない。
「今まで当たり前にできてたことが段々できなくなると思います。迷惑もかけると思います。どっかにふらっと行っちゃうかもしれません」
徐々に嗚咽混じりになっていく。
そんなこと、とっくに全部考えた。
「それでも、准一さんは私を……」
「愛してるに決まってるだろ」
「だって!!!」
夏帆はおれの右腕を掴んで叫んだ。
「私はあなたのことを忘れちゃう! あなたと一緒にいた時間を忘れちゃう!! あなたに愛されてたことを忘れちゃう!!!」
「それでもおれが夏帆を愛してる!」
「私が忘れたくないの! 怖いの! 私が私じゃなくなってしまうのが怖い。あなたのことを好きになって、あなたに愛されてるなぁって実感して、あなたを忘れたくないって叫んでる私は、今ここにいる私は!どこに行くの!?」
「夏帆はどこにも行かない! 夏帆は夏帆だ。おれもどこにも行かない。約束しただろ!」
約束したんだ。
遥か昔。夏帆がまだ学生だった時代――。
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