もしも最愛のあなたとの約束を守ったとしたら

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 二百回くらいプロポーズしてはズタズタに斬り刻まれた末に、ようやく付き合うようになった。  夏帆は料理が得意だった。  スキレットで焼いたハンバーグは肉汁が溢れた。スキレットは手入れが大事らしく、おれは皿洗い担当だったがスキレットは必ず夏帆が洗っていた。 「皿洗い上手になりましたね」  二人で流しに立っている時に夏帆が言った。 「ちゃんと周り拭くようになったし」  洗い物をした後に流しの周りが濡れたのをほったらかしているとこっぴどく叱られたことがあったので、それ以来気をつけるようにしていた。 「下僕検定三級をあげます」  以降、おれの下僕検定は着々と昇級していくことになる。作るか洗うか。仕事の分担は必ずだ。夏帆が動いてるときにテレビの前でグータラすることはなくなった。教育の賜物。  夏帆が焼く紅茶のシフォンケーキは絶品だった。ふわふわしっとりの口どけ。メレンゲ作りと隠し味の愛情が重要らしい。米粉でシフォンケーキを焼いた時もあった。米粉だともっちりに仕上がり違う食感が楽しめたが、やはり普通のシフォンケーキの方が好きだった。夏帆がケーキ作りに使ったあとの器具はもちろんおれが洗う。洗い方が悪いと怒られながら。  バレンタインにはガトーショコラを、誕生日にはイチゴのショートケーキを作ってくれた。意外にもデコレーションは苦手だったらしく、スポンジケーキを覆う生クリームはデコボコしていた。修行しますと言って、実際にクッキングスクールに入会したのはさすがだ。 『学生のうちに入会すると半額なんですよ。じゃじゃーん』  LINEで送ってきた画像は、そのクッキングスクールで作ったらしい焼き菓子だった。 『すごっ……』 『なんというお菓子でしょーか?』 『あのーほら、洋菓子の詰め合わせとかによく入ってるやつだよな』 『1.フランフラン 2.フロランタン 3.ランタン 4.タンタン どーれだ?』 『ふらんふらん』 『フランフランは雑貨屋さん』 『たんたん』 『タンタンはうちの実家で靴下を意味する赤ちゃん言葉。あ、二回間違えたので食べられません』 『食べるもん』 『間違えたのに。代わりに靴下あげます』 『齋藤家ではリモコンのことなんていうでしょーか?』 『准一』 『なんでwww』 『リモコン係、的な。リモコンまで手を伸ばすの面倒だから齋藤さんにやらせる』 『下僕かよ』
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