私と犬のドМな日常

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翌朝、目が覚めるとクロ・・・黒木夜絃の姿は何処にもなかった。 朝早くに出ていったらしい。 机の上には、やっぱり意外なほど几帳面な字で、『ありがとうございました。』と書かれたメモが置かれていた。 右下に、『寂しくなったらお店においで』なんて小さく書かれていたのは気のせいだ。 店舗名も書かれていたような気がするけど気のせいだ。 ありがとう、はこっちのセリフだ。 なんだかんだ愚痴を聞いてくれて、特に昨日は本当に助けられた。 「ありがとね、クロ。」 「直せと言われた書類ですが!  報告書が間違っていたので、こちらで全て調べ直しました。  今後はこのようなことがないことを願っています。」 オフィス、仕事仲間がいそいそと働く中、私は松本さんのデスクの前で大きめな声でそう、報告した。 私が近づいたことに気づいた松本さんは、私を人気のないところに誘おうと思っていたのか、爽やかな笑顔のまま、中腰になって私のその言葉を聞いていた。 オフィスの中、私以外のすべてが時間が止まったかのように静まり返っていた。 あれほど苦手だった人の視線も、今この状況では少し心地良い。 周りが、こそこそと耳打ちを始めたころ、やっと正気に戻った松本さんは、青ざめた顔でご苦労、とつぶやいた。 ふふん、と鼻を鳴らして身を翻し、私は自分のデスクに戻る。 あっけにとられていた女同僚に書類の一部を突き付ける。 「これ、やってね。  嫌なら私がこれからやるこっちをやってもらっても良いんだけど。」 そういって計算を必要とする書類を指すと、女同僚は首を振って自分のデスクについた。 なにあれ、感じ悪い、と片方がささやくと、でも計算より良いじゃん、ともう片方が答える。 なんかもう色々と吹っ切れた私は陰口なんて怖くないんだ。 そもそもこれ、私ら三人で捌く仕事だからな。 「斎藤さん!」 「ふぇ!?」 バシン!と背中を叩かれた。 痛い。 誰だよ、と振り向くと、にっこにこ笑顔でこちらを向いていたのは同時期に入社した男性社員だった。
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