私と犬のドМな日常

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「あぁっ!  あのくそ●●●ども!  仕事しろよクビになれよなんでわたしばっかりぁぁぁ」 日中抑えていたその文句は、慣れ親しんだ我がアパートの錆びたドアを開けた瞬間、溢れ出てきた。 ドサリ、とパンプスも脱がずに倒れこんだ廊下のフローリングは冷たく、気持ちがよい。 その際指先から離れていったスーパーのビニール袋から、半額シールのついた総菜が顔を出していた。 総菜の状態を確かめるのも拾うのも、ついでに食べるのも、何もかもが面倒くさい。 (もういっそこのまま寝ちゃおうかな。  ほっぺ冷たくて気持ちー。) その時、奥のダイニングキッチンにつながるドアが開き、そこからのっそりと猫背の男が現れる。 「もー、今日の晩御飯大切にしてよー。」 やる気のない声音でそう発すると、男は廊下に倒れこんでいる私の頭元にしゃがみ込み、総菜とビニール袋を拾い上げた。 やった、唐揚げだ、なんて大して嬉しそうな様子の無い声で呟くその男の足首をがっしりと掴む。 「大丈夫?とか言えないわけ、家主を労われ馬鹿ぁぁぁぁぁぁ」 完全なる八つ当たりだ、ということは私にもわかる。 それでも口からこぼれ出る文句は後を絶たない。 「もーみんなくそわたしもくそいやだいやだおうちにこもってたいしごといやだよぉぉ」 「しょうがないなぁ夏子サンは。」 気怠いその声と共に、私の頭に男らしい骨ばった手が乗り、ぐしゃぐしゃと無遠慮にかき回す。 髪が乱れる、と文句を言ってやろうと顔を上げた私の目の前の男は、恍惚とした笑顔で、さっきまでの気だるげな声が嘘みたいに嬉しそうな声でこう、宣った。 「俺のこと殴る?  きっとストレス発散になるよ。」 これはしがないOLである私、斎藤夏子と、ひょんなことから同居することになったドМ男(自称犬)、クロの、とある夏の話である。
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