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「もうやだみんなきえろなんでわたしばっかりこんなおもいしなきゃなんないのまつもとさんなんてくびになっちゃえわたしのときめきとどきどきをかえせしんでわびろ」
地を這うような声音でやっと口から文句を出したのは、やはり我が家のドアを開け、廊下のフローリングにパンプスも脱がず座り込んだ時だった。
いつもみたいにのっそりと奥のドアから顔をのぞかせるクロを見たとたん、私の目からダバダバと涙が溢れ出てきた。
「クロぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
流石のクロも只ならぬ私の様子に吃驚したのか、オロオロして、「殴る?俺殴る?」なんて言いながらよしよしと私の頭を撫でつつパンプスを脱がしてくれる。
クロ、やっぱお前は良い奴だよ。
お前が居てくれて本当に助かってる。
「マツモトサンの間違いを押し付けられた上に食事を取り下げられて他の女とイチャイ チャしてたって?」
ぐずぐずと泣きながら事のあらましを説明する私の話を、親身になって聞いてくれるクロ。
今日は半額のお惣菜買ってこなくてゴメンね。
机に宅配ピザの箱が置かれてるけど、今日は許してあげる。
「クロはそーゆーのも好きかもしんないけど、私にはショックだったんだよ、あの優しい!松本さんが!」
「う、うーん。」
「こんなに松本さんにうんざりしてても、あの人に押し付けられた仕事放棄できない自分 が嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うんうん、ちゃんと仕事しようとしてる夏子サンえらいえらい。」
でもどうしようもないんだよ分かんねぇよぉぉぉ!って頭を撫でてくれてるクロの胸に顔を押し付ける。
あ、鼻水ついちゃった。
まぁどうせ洗濯するのは私だ、構わねぇ。
「どんな書類なの。」
ガサゴソと私のカバンを漁るクロに、ちょっとやめなさいよ、持って帰ってきた私も私だけど一応プライバシー保護的なアレがあってだな、と文句を言う。
まぁ漁る手は止めはしない。
正直お手上げ、どうにでもなれ、だ。
この書類ができなくて怒られるのは私だけど、責任があるのはあのクソ上司だ。
「あっれ、これ松方サンじゃん。」
「へ?」
物知り気なクロの声に顔を上げると、クロはやっぱり気だるそうな顔で、こう言ってのけた。
「俺、松方サン知り合いだよ。
これ、多分わかるよ。」
そういって携帯電話の連絡先に『松方基サン』があるのを私に見せた。
その時のクロは、本当に神様に見えた。
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