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「あ、松方サン?俺・・・うん、久しぶり。」
そういって始まった、クロと、例の書類の顧客である松方さんの会話。
やっぱり気だるげな様子のクロは、私の仕事の事はこれっぽっちも触れずに、それとなく、書類の不備を埋める質問を松方さんにしてくれた。
こんな言い回しできたんだクロ。
実はすごく頭良いんじゃないの・・・。
感心してるうちに、「じゃあまたお店でね」なんて別れ言葉をささやいて電話を切った。
「すっごぉい・・・。」
心からの称賛に、クロは何でもない様にウン、というと、書類を私に返した。
「これでダイジョーブ?」
「うん、本当にありがとうクロ・・・・・。」
意外と几帳面な字が、書類に並んでいた。
あとはこれをパソコンで打ち直せば完成である。
「よく知り合いだったね、松方さん。」
「あーうん、よくSMバーで俺のこと指名してくれるの。」
「あぁ・・・」
いやいや、この際SMバーだろうとなんだって良い。
本当に助かった、ありがとう、と何度も感謝する。
お、クロ、ちょっと照れた、可愛い奴だ。
パソコンに向かい合ってぽちぽちする私に付き合って起きててくれるクロ優しい。
「んあああっ!
終わった!!!!!」
汚い泣き顔を見せた相手だし、本人が自称してる犬だ。
色気も減ったくれもない声をだして床に寝転ぶ。
オツカレーと声をかけてくるのは、やっぱり気だるげな声だった。
「ねぇ夏子サン。」
「なぁにクロ。」
半分睡魔に襲われながら返事を返す。
明日も仕事がある。
こんなところで寝ちゃだめだ、お風呂入らないと。
「俺さぁ、そろそろ家に帰ろうと思うんだよねぇ。」
そっかそっか、クロ帰るのか、うんうん、とりあえずお腹すいた・・・え。
「えっ!」
ガバリ、と急に身体を起こした私に、クロは吃驚した顔をしている。
いやいや、君そんな顔できたの・・・てか、え、何だって?
「何で!?」
「何でって・・・だって学校あるし。
もう夏休み終わるし。」
あぁ、そっか、もう八月も終わり・・・え?
「待って待って待って、ちょ、あ、あんた学生だったの?!」
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