マリア

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 はい、と妻が言う。ふー、ふー。 「はい、いきんで!」  うう、と妻が呻く。ああ、と叫ぶ。涙がこぼれる。がんばれ、と叫ぶ。がんばれ、がんばれ、がんばれ! 「がんばれ! 真利亜!」  生まれました! 助産師が言う。明るい声だ。突き抜けるような、光のある声だ。即座に、赤ん坊の泣き声が響き渡る。部屋中に、安堵の雰囲気が伝わるのが分かった。ほっと胸を撫で下ろす。次いで涙がこぼれた。分娩台に横たわる妻の胸に、赤ん坊が寝かせられた。皮膚はふやけたようにしわくちゃで、なよなよと頼りなくて、底抜けにかわいい、私と妻の子だ。 「かわいいね、しょうちゃん。ふかふかしてる。かわいいね」  妻は笑っていた。あの壮絶なお産なんて、まるで嘘みたいに柔らかであたたかな表情をしている。いい匂いだよ、赤ちゃん。妻は言う。我が子の指先にふれる。そして吸い付くように、私の指を握った。 「かわいいなあ」  そうしたつもりはなかったのに、まるで絞り出すように喉を震わせた。ひゃあ、と我が子が声を出す。かわいいなあ、がんばったなあ、泣いてばかりのおとうさんでごめんな。 「あ、そういえば」  脚を開いたまま、妻は破水のときと同じように、けろっとした様子で助産師を呼ぶ。     
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