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「僕にはわからないよ、君のことが」
「わかんなくていいさ。そんな簡単にわかられても気味が悪い」
コンビニで買った安いウイスキーを開ける。昔はこれを三人でちびちび飲んでいた。発泡酒やサワーに比べると高くなるけれど、水で割れば長く楽しめる。最初は苦くて何が美味しいかわからなかったウイスキーも、今ではロックじゃないと飲めなくなってしまった。
綺麗に磨かれたグラスに球体の氷を入れる。一つ、二つ、それから三つ。コロリと転がる大きな氷に、安くて無駄に香りのきついウイスキーをトロトロかけた。
ピキピキ音を立てて、氷が溶けていく。
「そして時々、ひどくロマンチストだ」
「男なんてそんなもんだろ」
「そうかな。僕はあまり。どうせ飲むならもっといいスコッチが良かった」
「俺はお前のそういうところが好きだよ、まったく」
俺だって本当はテキーラがいいさ。喉が焦げ付くようなアルコールで頭を焼き焦がしたいさ。それでも今日は、今日だけは。このウイスキーじゃないといけないんだ。
「乾杯しよう」
「そうだな」
きっちり三等分に注ぎ入れたウイスキーを手にして、小林はそっと目の高さまであげた。俺も同じようにグラスを掲げる。
最後の一つは、誰も手にすることがない。
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