14時46分

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 空は青く澄んで、風もなく、穏やかに晴れ渡った空は、あの日と何も変わらなかった。俺たちの友人を飲み込んでいった海も、今日は静かに凪いでいた。  写真の中で何の屈託もなく笑う櫻井はこれからも年をとることなく、この日を迎えるのだろう。それを眺めながら俺たちは日々年を取りながらこの日を迎える。  この行為にもしも意味があるとしたら、それはきっと。 「あの日々に、俺たちの、輝かしき日々に」 「僕たちの親愛なる友人、櫻井に」  ロマンチシズムとセンチメンタルに溺れて涙を流すため、何だろう。それは決して葬いではない。この世は生者のものだ。生きている者が作る物だ。俺たちがいくら弔っても、祈っても、死んだ人は生き返らない。だからこの涙は自分勝手な物だ。そんな涙でさえも死者は、静かに笑って、受け流してくれる。 「乾杯」  こうしてまた俺たちは生きていく。傷を抱えて、悲しみを背負って、生きていく。そのためには休まないといけない。今日は、そういう日だ。そういう、特別な、日なのだ。  明日からまた続く単調で平凡な日々を生きるために。俺たちは、死者にすがる。誰も手をつけなかったグラスから雫が垂れて、テーブルに小さなシミを作った。
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