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ベガ(前照灯)
明け方、息を潜めて翠の六畳間を覗いた。頭から毛布をひっかぶっている。
窓を少し開けて眠ったらしく、小糠雨が古い畳を濡らしている。
俺はそっと部屋に入り、窓を閉めた。
しわくちゃのシーツと、ざんばらになったショートヘアーは、すっかり埃まみれになっていた。土木作業員用の防寒着を纏い眠るその姿は酷いものだった。
「莫迦だな」
と寝顔を眺めながら、ひん曲がったフィルターを咥えた。鎖骨のような煙草の起伏をときどき撫でて、衝動を誤魔化す。
畳に転がっていた翠の携帯電話が鳴った。すぐに掴んで応答する。
月百千だった。
慌ただしい状況なのか、やや固い早口で、
「翠に伝言を頼む」
と言った。
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