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夜汽車のような小路地へ出て、瑪瑙色(めのういろ)の四ツ辻まで歩いた。峯さんの駄菓子屋の雨戸は閉まっている。
窓を叩いたが、峯さんの夫はまだ入院中のようで誰も出てこない。
どこからか子供の声が聞こえた。
「もう少し、待ちたいよ」
裏手を覗くと、螺旋の外れかかったポストの前に、立っていた。
からし色のポロシャツを着た四十代ほどの大柄な女が居た。
女は役所仕様のような携帯電話を、首からぶらさげている。
そのそばにいる、七、八歳の丸坊主の少年が泣きはらした顔で峯さんの家を見つめていた。
少年は声を震わせた。
「手紙の返事がくるかもしれないんだ」
相手は眉根を寄せる。
「でも叔母さん、もう行かなきゃいけないのよ。ね、我がままはおしまい。さあ行こう、拓(たく)ちゃん」
女は煩わしそうに言って、その子の細い腕を引っ張った。
少年はそれでも足を踏ん張り、蒼ざめた瞳で駄菓子屋をしばらく見ていた。
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