ベガ(前照灯)

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   女は無言で肩を鷲掴んみにし、少年を強く引いた。  少年のほうは渋々ついていったが、ふり返っては悲しそうにうつむき、また振り返っては、冷えた地面に目を落とした。  彼らは、ひしゃげたT地路を去って行った。  俺は携帯電話で翠を呼び出した。相手はもしもし、と掠れ声で応答する。 「拓ちゃんという子が、駄菓子屋に来ていた」  そう告げると、慌てて起き上がったのか、張り詰めた弦のように、えっ、と言って、衣擦れの音を立てた。 「……子供が」 「ああ。峯さんの家を心配そうに眺めていた」 「その子……、何か知らないかな」 「そうだな、話を聞きたかったけれど、叔母のような人に連れられてすぐに行ってしまった」  翠は呼吸(いき)を詰まらせたあと乱調させ、 「ねえ」  と、ほとんど消え入りそうな声で、訊いた。 「人間は飲まず食わずで、何日くらい生きるの」  思わず強ばった。胸に重石が沈殿していく。 「──さあ、……一週間か。水が無ければもっと短いだろう」 「峯さんが居なくなって五日目」  翠は声を細く震わせた。
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