131人が本棚に入れています
本棚に追加
女は無言で肩を鷲掴んみにし、少年を強く引いた。
少年のほうは渋々ついていったが、ふり返っては悲しそうにうつむき、また振り返っては、冷えた地面に目を落とした。
彼らは、ひしゃげたT地路を去って行った。
俺は携帯電話で翠を呼び出した。相手はもしもし、と掠れ声で応答する。
「拓ちゃんという子が、駄菓子屋に来ていた」
そう告げると、慌てて起き上がったのか、張り詰めた弦のように、えっ、と言って、衣擦れの音を立てた。
「……子供が」
「ああ。峯さんの家を心配そうに眺めていた」
「その子……、何か知らないかな」
「そうだな、話を聞きたかったけれど、叔母のような人に連れられてすぐに行ってしまった」
翠は呼吸(いき)を詰まらせたあと乱調させ、
「ねえ」
と、ほとんど消え入りそうな声で、訊いた。
「人間は飲まず食わずで、何日くらい生きるの」
思わず強ばった。胸に重石が沈殿していく。
「──さあ、……一週間か。水が無ければもっと短いだろう」
「峯さんが居なくなって五日目」
翠は声を細く震わせた。
最初のコメントを投稿しよう!