131人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は応えた。
「そうだな……、もう……5日目だ」
「早く見つけなきゃ」
相手は息を苦しそうに、霞ませる。
「俺が代わりに現場の用事を済ませてくる」
と告げて、通話を終える前に念を押した。
「お腹に子供がいるんだ。無茶するなよ」
電話を切って俯き、平行する空気を踏みしめた。沈んだ翠の声に、口を噛む。
五軒時駅に向かう道の途中で、突如、あたりが暗くなった。
遠雷が閃くと、レールが空の澱みをうつした。
「希望って、いつもどこに棲んでいるんだ?」
重い上空の瀞(とろ)にそう訊いて、
「肝心な時に役に立った試しがない」
そう託って、雲間のトンネルとおぼしき街路をひた歩く。
錆びついたアーケード街が見えたところで、ふと何か光るのを感じ、顔をあげた。
──真空色のなかで光を放つ、一〇〇形の前照灯だった。
最初のコメントを投稿しよう!