プロキオン(女物の煙草)

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 月百千は両目に葉巻色の影を湛えた。 「お前は、ただ、あの女のそばに居たいのだろう?」 「……」 「お前は半年前に仕事を辞めちまった。たかが”同僚”のためにだ」  二人、開かれたドアから屋上に出た。穴蔵から這い出たもぐらたちのように、同時に身を竦め、同時に目を細めた。  応えを返さないでいると月百千は息を螺旋型に吹いて、横半分を明るみに向けた。 「彗星が峯さんの居場所を報らせようとしているなんて、最初は信じていなかった」  と、こめかみをコツコツ叩く。 「だが翠の話を訊くうち、彗星は確かに何かを伝えようとしている、そう思うようになった」 「何故だ?」 「お菓子の包み紙に書いた子供たちへの言葉があっただろう」  記憶を巡らせ、うなずく。 「”わたあめを作るエンジン”のことか」 「そうだ。彗星は、あの言葉を用いて峯さんの居場所を伝えようとしている」 「え……?」 「間違いない」    俺はコートの埃をはらいながら、目玉に皺を寄せた。 「そんなこと」  ──しかし月百千は真に迫った顔で言った。 「夜中、翠は電話でこう告げたよ。”グッド・ホープ"という彗星の名を検索したら、ある町がヒットした。アリゾナ州にある、グッド・ホープという町だ”」 「アリゾナの……"グッド・ホープ"?」
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