131人が本棚に入れています
本棚に追加
月百千は両目に葉巻色の影を湛えた。
「お前は、ただ、あの女のそばに居たいのだろう?」
「……」
「お前は半年前に仕事を辞めちまった。たかが”同僚”のためにだ」
二人、開かれたドアから屋上に出た。穴蔵から這い出たもぐらたちのように、同時に身を竦め、同時に目を細めた。
応えを返さないでいると月百千は息を螺旋型に吹いて、横半分を明るみに向けた。
「彗星が峯さんの居場所を報らせようとしているなんて、最初は信じていなかった」
と、こめかみをコツコツ叩く。
「だが翠の話を訊くうち、彗星は確かに何かを伝えようとしている、そう思うようになった」
「何故だ?」
「お菓子の包み紙に書いた子供たちへの言葉があっただろう」
記憶を巡らせ、うなずく。
「”わたあめを作るエンジン”のことか」
「そうだ。彗星は、あの言葉を用いて峯さんの居場所を伝えようとしている」
「え……?」
「間違いない」
俺はコートの埃をはらいながら、目玉に皺を寄せた。
「そんなこと」
──しかし月百千は真に迫った顔で言った。
「夜中、翠は電話でこう告げたよ。”グッド・ホープ"という彗星の名を検索したら、ある町がヒットした。アリゾナ州にある、グッド・ホープという町だ”」
「アリゾナの……"グッド・ホープ"?」
最初のコメントを投稿しよう!