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夕方、あいつはまた行き先も言わずに出かけて行った。俺は脱ぎ捨てられた翠(すい)のコートを探った。小さなガムの包み紙がいくつか入っていて、裏側にこんな文字が書かれていた。
「健ちゃん。わたあめを作るエンジン」
「ときちゃん。ソーダ味のプール」
その文字はぶきようだが、丁寧でひとつひとつに思いがこめられていた。駄菓子屋の峯(みね)さんの字だった。
空に浮かぶ光を見あげた。探査機が彗星を調べたところ、酸素が見つかったとか。そんな数年前の記事を思い出した。
夜が深くなっても、翠(すい)は戻らない。十一時を過ぎてすぐ、月百千(つきもち)のおやじから電話があった。跨線橋近くの工事現場で、七体の人骨が出てきたと言う。
俺は訊いた。
「事件なのか?」
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