アルゴル (100形の路面電車)

5/7
前へ
/465ページ
次へ
  「翠は記憶の一部を失っていると言っていたが、仕事に関しては問題なくやれている……」  携帯電話をポケットにしまい、翠の寝室を覗いた。腰高窓が開いていて、カーテンが揺れていた。難病の母親を失ってからずっと抱えている悲しい感情のうずは、残っていた。  ”現場で人骨が見つかったらしい。月百千さんが立ちあえと言っている”  翆の携帯電話にメッセージを送った。しかし返信は、無い。  きっと駄菓子屋の峯さんを、探しに行ったのだろう。まるっこい目をしたやさしいおばあさんだ。  二日前から行方不明になってしまっていた。
/465ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加