プロキオン(女物の煙草)

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プロキオン(女物の煙草)

   トラックたちの凍った轍がシャーベット状の星の光を溜めていた。  中途まで土の盛られた現場に赤いコーンが並び、車線調整用の点滅電飾が声なく瞬いている。  白っぽい二階建ての現場事務所の窓を叩いた。月百千は目の皺に笑みをふくんで手招きをした。  事務所に入ってベニヤの木目を見おろしていると、月百千は砂を踏みながら古電話色の引き出しをガタガタいわせた。  フラッシュメモリと月報を受け取り、煎餅屋の紙袋に入れた。翠の机の上には数枚の図面が散らばっている。図面以外はペンひとつ転がっていない。  俺は、がらんとした机の湿りに、そっと触れた。  月百千は小型冷蔵庫から青い缶コーヒーを取って啜った。その顔色は酷く悪かった。 「お前、まだ仕事には戻らないのか」  と訊く。  眉を掻きながら応えた。 「ああ」 「何故だ?」  黙っていると相手は呟いた。 「求めても与えられないものにしがみついていると人生を棒にふるぞ」  俺はぼやけた闇に、目を落とした。
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