第一章 I bet my life!

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病室には、規則正しい機械の鼓動が満ちていた。人工呼吸器につながれた少年の表情はおだやかだった。すっかり筋肉の衰えてしまった少年の手を田中は握った。指先を一本一本優しく動かす。毎日、一時間。個室の開け放たれた戸口から、看護婦詰め所の世間話が聞こえてくる。 「あの子意識のない友達の指のマッサージにまた来てる。えらいわ」 「脳死の人がお母さんのマッサージで目覚めたって言うけど電脳自殺にきくのかしら」  いつか少年が目覚める奇跡を願って、田中は少年の指先のマッサージを続ける。 「中田ぁ。俺、今日も負けちゃったよ。おまえがいないと勝てないよ」  悔しく、あついものがこみ上げてくる。あの日のことを忘れたことなどない。 リトルリーグ、決勝前日。  準決勝を難なく勝利したあの日。決勝への高揚感に酔いしれていたあの日。 「なあ、このあたりにまだ誰も採掘してない廃材区域があるらしい。なんかすげえボスがいるとか」  田中は、中田との最後の会話を思い起こした。 あの日だ。あの時、どうしたら、中田を救えた?  インタラバトルでは、マイニングという素材集めが大事だ。空き地やビルの影、木々の梢。いろんなところにマイニングポイントがあり、採掘をする。素材には、ランクがあり、優れた武器やパーツを作るのに欠かせない。誰も採掘したことがない場所ほど、優れた素材に巡り会える可能性が高い。子どもたちが、公園でゲームをもって、じっと遊具の上で遊んでいる時代は終わった。子どもたちがまだ見ぬ、マイニングポイントを探して、街を探検するのだ。 「俺もう疲れたよ。やめとけよ。チートバトルなんて、明日決勝だぜ」 「ちょっとのぞくだけだから、な? 俺たちなら楽勝だって」  田中はチートはやらない。いつになく甘えたように誘う中田を田中は顧みなかった。 「もうホテル帰って寝るから、俺」 『あの時、俺がおまえと一緒に行ってたら』
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