第一章 I bet my life!

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決勝会場に中田は来なかった。 「決勝なのにどこいってんだよ、中田。コールでろよ」  中田のインタラクティブアイウェアに何度も連絡を入れるが、応答はない。  試合開始時間までもう、残っていない。このままだと失格だ。焦りばかりが募る。 「君、ウイング(相棒)は? もう時間だよ?」  ジャッジの言葉に、田中は歯を食いしばった。 「棄権します」 「チーム田中田中田(たなかだなかた)棄権! リトルリーグ全国大会優勝はキューティフォートレス!」  田中と中田で田中田中田(たなかだなかた)。決勝まで二人で戦ってきた。いつも二人だった。田中は一人になった。中田と会う以前の田中だ。  一人で、笑われ、コケにされる田中だ。  街外れの廃材置き場に田中は、駆けつけた。 「中田の野郎、どこにいやがる。GPSだとこのへんに、あ」  廃材置き場のボコボコのアスファルトの上に、中田が倒れていた。  中田のアイウェアが起動したままだ。 「インタラクティブバトル?」  田中は、自分のアイウェアを外して、中田のアイウェアをかけた。  見慣れない中田のアイウェアに、インタラクティブゲームの画面が映し出された。  マイニング、素材採りの採掘画面ではない。バトル画面だ。 Continue? カウントダウン3、2、1 gameover 「中田、中田? なにがあったんだ? 中田!」  中田を抱え起こして、救急車を呼ぶ。生まれて初めて呼ぶ救急車。乗る救急車。 「中田はネットに脳をアップロードしたりしてない。あれはバトル中になにかあったにちがいないんだ」 「彼の端末にあそこで誰かとバトルした形跡はない。これは最近多発してる脳をアップロードしたときの症状と同じだ」 「中田は自殺したりしない! そんなことするヤツじゃないんだ」  中田は学校が嫌で、自分の脳をネットにアップロードしようとした。ネットの世界に入っていける。根拠のない、悪い噂に騙されて。大人たちのストーリー。誰も話を聞いてはくれなかった。中田は心が弱かった。担任の先生の言葉が中田の誇りをむしりとる。  何もできず、カウンセラーは、同じことを言うばかりだ。
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