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決勝会場に中田は来なかった。
「決勝なのにどこいってんだよ、中田。コールでろよ」
中田のインタラクティブアイウェアに何度も連絡を入れるが、応答はない。
試合開始時間までもう、残っていない。このままだと失格だ。焦りばかりが募る。
「君、ウイング(相棒)は? もう時間だよ?」
ジャッジの言葉に、田中は歯を食いしばった。
「棄権します」
「チーム田中田中田(たなかだなかた)棄権! リトルリーグ全国大会優勝はキューティフォートレス!」
田中と中田で田中田中田(たなかだなかた)。決勝まで二人で戦ってきた。いつも二人だった。田中は一人になった。中田と会う以前の田中だ。
一人で、笑われ、コケにされる田中だ。
街外れの廃材置き場に田中は、駆けつけた。
「中田の野郎、どこにいやがる。GPSだとこのへんに、あ」
廃材置き場のボコボコのアスファルトの上に、中田が倒れていた。
中田のアイウェアが起動したままだ。
「インタラクティブバトル?」
田中は、自分のアイウェアを外して、中田のアイウェアをかけた。
見慣れない中田のアイウェアに、インタラクティブゲームの画面が映し出された。
マイニング、素材採りの採掘画面ではない。バトル画面だ。
Continue? カウントダウン3、2、1 gameover
「中田、中田? なにがあったんだ? 中田!」
中田を抱え起こして、救急車を呼ぶ。生まれて初めて呼ぶ救急車。乗る救急車。
「中田はネットに脳をアップロードしたりしてない。あれはバトル中になにかあったにちがいないんだ」
「彼の端末にあそこで誰かとバトルした形跡はない。これは最近多発してる脳をアップロードしたときの症状と同じだ」
「中田は自殺したりしない! そんなことするヤツじゃないんだ」
中田は学校が嫌で、自分の脳をネットにアップロードしようとした。ネットの世界に入っていける。根拠のない、悪い噂に騙されて。大人たちのストーリー。誰も話を聞いてはくれなかった。中田は心が弱かった。担任の先生の言葉が中田の誇りをむしりとる。
何もできず、カウンセラーは、同じことを言うばかりだ。
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