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重なり合う2つの影の間で、ほのかに光が発せられる。
あいつが今回の任務のターゲットか?訝しげながらも、今し方仕事の1つを終わらせた有羽の様子を見つめた。
「ふふ、冗談よ」
パンと音を立てて扇子をたたむ有羽。反対側のテーブルで扇子の代わりに天女を思わせるような布で観客たちにパフォーマンスを広げていた里紗は、それを合図に舞台へと戻る。
演奏の終了と共に最終の立ち位置でポーズを決める二人は、お辞儀をした後に手を振りながら舞台の袖を後にした。
「やりすぎだ」
「えへへ、ごめんなさーい」
呆れるように注意すると、有羽は悪びれる素振りも見せずに軽く謝った。
それよりもと、『D1』が今回のターゲットであったのかを尋ねると有羽は少し考える仕草をとった。
「ほんの少しだけ魄の気配はしたけど、違うと思う。お酒の勢いを借りてって感じだった。それより気になるのは会場の雰囲気かな。建物全体がなんか異様だよね」
それは自分も思っていたことだった。会場内というよりは、建物自体がまるで生物であるかのように重苦しい空気を放っていた。
少し、調べてみるか。
他にも会場内では仲間が潜入していることから、智孝は公演終了まで建物内を見て回ろうと思い、それを二人に告げる。
「じゃあ、着替え終わったら連絡するね!兄ちゃんが調べられない所はお任せを」
有羽がおどけてそんなことを口走る中、演目6番が始まった──
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