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SCENE3:恐怖の始まり【玖堂 有羽】
「くうー!一仕事終えた後のスイーツはうまい!」
ストレス解消に酒を飲むサラリーマンが言いそうなことを口にしながら有羽は目の前にあるチョコレート味のシフォンケーキを頬張った。疲れた後のこの甘味。たまらない。
「結局、何もなかったね」
里紗の言葉に、もぐもぐとケーキを堪能しつつ自分の考えを言おうとした時だった。
「あなたはいいわよね、仕事がなくなる心配がなくて」
と、隣に座っている女性の声が聞こえた。ため息交じりに、どこか責めているような口調に最後の一口はフォークに刺さったままだ。
ケーキと共に里紗に告げようとしていた言葉も呑み込み、女性に視線を向ける。二人の時間を楽しんでいるカップルのようだが、彼女の発言で男性の表情はこわばっている。
その後に「私の会社なんて、今月3人も辞めさせられたわ」と続き、どうやら自分がリストラされるのではないか?という悩みを打ち明けているようだった。
有羽の視線に気付いた里紗も、何も言わずにカップルの会話を盗み聞く。
「公務員なら、その点安泰だものね」
「えー、でもそれってさ、お医者さんに「あなたは足場から落ちる心配しなくていいわね」って言ってるようなものじゃない?」
「……は?何あなた」
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