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「死んだ親父はさぁ、とにかく無口でお人好しでね……
俺には仕事してるか新聞読んでるかくらいしか記憶が無いよ。
酒もほとんど飲まない人で。ただ、年に1日だけビール1本を飲んで酔っ払う日があったんだ。
酔っ払うって言ったってしんみりチビチビ飲んでその場で寝ちゃうくらいなもんなんだけどさ。
親父が死んでからお袋に聞いたんだけど、年に一度のその日は昔の友達の命日だったんだ。
そんで、親父の命日に墓参りに行くと必ず新しい花が活けられてるんだ。
お袋はいつも「ありがたいありがたい」って言ってたよ」
「秀ちゃん…あたし、お義父さんには直接会った事ないけど、お義父さんの事もお義母さんの事も大好きだよ」
そう言った操の瞳は少し潤んでいるように見えた。
「お袋がよく言ってたよ。
あんたの父さんはね、パッとはしなかったけど本当に立派な人だったんだよ。
お蔭であたしもいっぱい苦労したけど、お父さんの事が大好きだったし、一緒になって幸せだったよ。とにかく優しい人で、絶対に人の悪口も愚痴も言わない人だった…」って。
「昔世話になった人の借金の連帯保証人を頼まれて、その挙げ句逃げられちゃって……小さな家も土地も全部取られちゃったけど、その人の事すら悪く言った事は一度もないよ。昔世話になったからって……」
操が泣き出した……
俺は意味もなく「大丈夫だよ、俺も似たような男になっちゃったけどさ」と笑うだけだった。
そんな俺に操が抱き付いて言った。
「あたし、秀ちゃんの事が大好きだよ」
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