小さな幸せ

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「ふう…」  たった今読み終わった本をぱたんと閉じローテーブルの上に置く。ぐぐっと伸びをすると体のあちこちからぺきぺきとなる音がしたので苦笑いを浮かべた。普段本を読むときは大学の講義やアルバイトの隙間時間を見つけて少しずつ読んでいるので、こんなに長い時間集中して読んだのは久しぶりだった。  目の前の壁にかかっている時計に目を向けると昼を少し過ぎたくらいの時間だった。読みはじめてから一、二時間ほど経っているようだがよほど本に夢中だったのか全く気付かなかったようだ。  だが体は少し疲れたようで、私はソファーにごろっと横になった。窓から入ってくる暖かな日の光に包まれながらのんびりしていると次第にまぶたが重くなってくる。  はっと目を覚ます。寝起きでまだ焦点の合わない眼をこすりながら時計を見るともう夕方だった。 「いかん、だいぶ寝ちゃったみたい…」  体を起こして伸びをする。ソファーに腰かけたまましばらくぼーっとしていると少し喉が渇いているのに気付いたため立ち上がってキッチンへ向かう。食器棚からコップを取り出して冷蔵庫のなかで冷えていたお茶を注いで一気に飲み干した。 「くあー…、しみますな~」  そんなおっさんのようなことを呟きながら空になったコップをシンクに置く。 「あ、洗濯物取り込まなきゃ」  洗濯をしたことをすっかり忘れていたことを思いだし、カゴを手にベランダへ向かうい干しておいた洗濯物が乾いているかを確認しながらカゴに入れていく。すべて入れ終わったあとふと視線をあげると、ちょうどタイミングがよかったのか綺麗な夕焼けが広がっていた。 「綺麗…」  ベランダに取り付けられた手すりに両手を乗っけて夕焼けを眺めながら今日一日を思い出す。  ゆっくりと朝食を取ることができた、久しぶりに外に洗濯物を干すこともできた、買ったまま読めないでいた本をやっと読むこともできたし日向ぼっこをしながら昼寝できて、そしてこんな綺麗な夕焼けを眺められて……。久しぶりの休日をとても有意義に使えたことがとても嬉しかった。そして私は、朝の自分が思ったことを思い出した。 「今日は特別な日だ、だっけ。本当に特別な日、特別な休日だったなぁ…」  誰に言うわけでもなくそう呟いてふふっと小さく笑う。そして明日からもまた頑張ろう、と心に決めながら部屋に戻った。
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