1章

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成瀬彼方(なるせ かなた) 彼は7年前の私の新人教育係だった。営業成績は抜群で社内でも一目おかれる存在で、信頼を一心に受けていた人だった。 長身でキリっとした面立ちだから、イケメンの部類に入るだろう。 「新人教育を担当することになった成瀬です、よろしく」 と挨拶されたときは、正直とまどった。 営業トップの人と仕事ができるのか不安で仕方なかった。 営業もトップの成瀬先輩に新人教育になってもらったことを、 「ひな、成瀬先輩と営業にいくなんてうやましい~~~~」と何度、澪にいわれたことか。 研修後の実地訓練に入って、とにかく苦しんだ。彼は仕事に対してかなり厳しい。 「若宮、だめだこの提案書は。数字がきちんとしめされてないから、やり直しだ」 時間・締め切り厳守・気に入らない提案書を持っていったら突き返されることは日常茶飯事。 残業は当たり前の生活だった。 あとから知ったことだが。彼は、新人をつぶすことで有名だったらしい。 苦痛でしかたなかったが、わからないながらもみよう見まねで成瀬先輩との同行営業を行っていったが、のちにそれが私の営業スタイルの基本となった。 普段の成瀬先輩は笑顔が少なく、感情表現がわかりづらく、私のも苦手でしかたなかった。言葉使いもぶっきらぼうで、しょっちゅう成瀬先輩にあきれられた。 だから、先輩と会話をするときは緊張しておどおどしていた。 2人でいると会話に詰まるのも悩みの種だった。 でも次第に、真剣に成瀬先輩にくらいついて仕事を覚えた。はやく一人前として成瀬先輩に認めてほしかった。その一心で、必至で作った提案書を突き返されて涙がこぼれおちるのも我慢して仕事をした。とにかく仕事が速い先輩についていくため、覚えるのも必至で、メモをとりまくった。 おかげで、同期よりもはやく仕事を覚えることができた。
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