1章

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1か月一緒に同行営業したが、相変わらず無口な成瀬先輩に対して苦手意識を保ち続けていたけど、唯一好きだったのが社用車の運転する成瀬先輩の姿。 成瀬先輩はすごく安定した運転をするので、のりごごちがよかった。 安全運転するのに安心しきって、なんど眠くなったことやら。 たまに見せる笑顔で 「若宮、次の訪問先までしばらく時間があるから寝ていてもいいぞ」 といわれたことが嬉しかった。 仕事に関することについては、社用車のなかでかなり打ち合わをした。遠くまでドライブすることはあったが、でもプライベートな会話はされることはなかった。 仕事の話ばかりしていたかもしれないけど、成瀬先輩なりに気をつかってくれたのだろうか。 「営業ってつかれるだろ、だからせめて音楽くらいはカフェにいるような感じにしたいんだ」 と貴重な笑顔で笑って音楽をかけてくれたときは、心がなごんだ。 チョイスされる曲は、ボサノバだったりクラシカルジャズ、R&Bなど。 J‐POPしかきかない私にはとても新鮮で心地よいものだった。 長距離移動することもあったのが、密室の空間でも、柔らかな音色の安らぎの音楽が流れるときは心が弾んだ。 訪問先についたときには、心もリフレッシュされ、集中力も増していることに気づいた。 「さぁ、今日なんとしてでも契約をとりにいくぞ」 との、成瀬先輩の言葉に意気込んで、営業先のドアをあけた。
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