1章

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成瀬先輩とルート営業を回って1か月。転機が訪れた。 営業先への商品を納品するために準備していたら、高階湊(たかしなみなと)課長に呼び止められた。高階課長は物腰がやわらかく、営業課のみんなから信頼をおかれていた。 「若宮さん、忙しいところちょっといいかな?」 「はい、大丈夫です」 そういうと、会議室に案内された。 「失礼します」といってやわらかなクッションがあるソファにすわる。 嫌な予感がする。営業先からのクレームかしら!?と冷や汗が流れる。 「若宮さん、もう仕事には慣れたかな?」 「いえ、まだ慣れていなくて成瀬先輩に頼り切っています」 「そうか……」 高階課長の顔が曇る。なにかまずいことをいったかな? 「さて本題に入るけど、急な話で申し訳ないんだけど成瀬君が移動になるんだ」 「えっ!?」 「内示前だけど、若宮さんにはさきに伝えておこうと思って」  頭の中がパニックになった。 「それで、若宮さんには悪いけど、もう一人でルート営業をしてほしい」 「え、もう独り立ちってことですか!?」 周りの同期はまだ先輩についてまわっているのに。 ここは会社、おそかれはやかれやってくる一人立ちして仕事を覚えていくのだが、あまりにも展開がはやすぎる。 「若宮さんの提案書はとてもよくできている。顧客への説明も丁寧だと成瀬くんから聞いているのでもう大丈夫だと判断したんだよ。これからの君に僕も期待している。だから頑張ってほしい。成瀬くんのいない間、サポートは前面的に僕がやるから」 「どのくらい期間ヘルプでいくんですか?」 「期間は決まっていない、関西支社にいくことになっているけどね。だから関西にいくまでに若宮さんには成瀬くんからはやくから顧客を引き継いでほしい」 高階課長のサポートの申し出はありがたかったが、心にぽっかり穴があいた気分だった。 営業のエースとして絶大な顧客からの信頼を得ていた成瀬先輩。 その成瀬先輩が転勤したときは少し寂しい気分になったが、成瀬先輩が構築した信頼関係をなんとしても守りたい。不安でいっぱいだけど、私は少しやる気がでた。 でも、ここは職場 成果をださなきゃ意味がない。 そして7年間の間、いろんなことがクレーム、無茶な要望にもできるだけ対応した。 恋もすることなく、がむしゃらに仕事をした。 そう、私は強くなった 前よりも。 いつか成瀬先輩にも認められたい、そう思ったいた。
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