店長とデート

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―――そんなこんなで時は過ぎ、今日は約束していた通り、片桐さんと映画を見に行く日曜日だ。 空は雲一つ無い快晴。気温も暑くもなく寒くもない。 まさにお出かけには絶好の休日である。 「て、店長!おはようございます!」 「おはよう、片桐さん。……ずいぶん来るの早いね」 車を駐車場に停めて歩く事数分、私は予定時間よりも相当早く待ち合わせ場所の公園に到着した。 ……にも関わらず、そこには既に片桐さんの姿がある。 公園前の木製ベンチに座っていて、私が来ると彼女はすぐに立ち上がってお辞儀をした。 「ごめんね。待たせちゃったかな」 「いえ、私も今来た所ですよ」 おお。その「私も今来た所」ってセリフは、いつもなら私が使う言葉だ。 人を待たせるのが好きでは無い私は、待ち合わせになると必ず予定時間よりも早く来てしまうから。 だから人からそのセリフを聞くのは、とても新鮮に感じる。 「そっか。じゃあ良かった」 「店長も早いですね」 「うん。いつも早く来ちゃうんだけど、今日は楽しみだったから更に早く着いちゃったよ」 私の言葉に、嬉しそうに笑ってくれる片桐さん。 ちょっと緊張してるのかな、少し笑顔がぎこちない気がする。 いつも彼女が仕事中に見せる満面のスマイルは、もっと柔らかいんだけど。 「店長、いつもと少し雰囲気が違いますね……」 「そう?」 「はい。髪も結んでないし、エプロン姿しか見たことなかったから……」 ああ、まぁ確かにね。休日まで仕事モードで出かけるのは、さすがに仕事人間の私でも嫌だ。 普段の私は髪を一本に結び、白いワイシャツを着て、黒のパンツにカフェエプロンを付けるのが基本スタイル。 だけど今日の私服も、正直仕事着と対して変わらない気がする……。 黒い七分袖のシャツ、暗めのジーンズ、後は適当に薄い上着を羽織るだけという、超シンプルな格好。 うーん、昔はもう少しおしゃれに気を使ってたんだけどなぁ。
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