店長の軋み

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「迷惑なんて思わない。……貴女が会いたいって言うのなら、いつだって会いに行くよ」 『そんな事宣言しちゃっていいんですか?何なら私、今すぐにでも塔子さんに会いたくて仕方ないですけど、来てくれます?』 「え!?……か、鹿児島は、ちょっと遠いかなぁ……」 いつだって、と一丁前な事を言ったくせに、早速自分の発言に自信が持てなくなる私。 い、いやでも、本気になれば私だって……。 脳内に即席の日本地図(大分あやふや)を作り、現在地から鹿児島県までの最短ルートを絞り込む。 休憩無しでひたすら突き進むだけなら、15、6時間くらいあれば着きそうだけど……。 流石に睡眠も無しで走り続けるのは危険だし、数時間の仮眠は必要不可欠だろう。 しかしそれでも、休憩もそこそこに全力で向かえば、20時間以内には鹿児島に着くんじゃないか?うん、何とか頑張れそうじゃない! 自分の年齢も考えず、一徹くらいなら平気平気!……なんてお気楽な事を考えている私。 数ヶ月前の私に「徹夜で鹿児島行ってくれ」なんて頼んだら全力で殴られそうだけど、今の私なら余裕で出来てしまいそうだ。 拳を握り締め、パッとベッドから飛び起きる。 「い、今から出れば、明日の夕方にはそっちに行けるかもっ!」 高速もこの時間なら昼間より混雑していないだろうし、今すぐ出発すればっ…… 『……ふっ……あはははっ!もうっ、落ち着いて下さい塔子さん!冗談に決まってるじゃないですか!』 「え、……えええ……?」 『塔子さんに会いたいって気持ちはもちろん本当ですけど、そんな浮かれた様子で運転なんてされたら危ないので、絶対やめて下さいね。そもそももう寝る時間でしょう?塔子さん』 「それは、そうだけど……」 自分の中で爆発していたやる気が突然行き場を失ってしまい、へにょりと再びベッドに倒れこむ。 スマホの向こうではまだ雛乃ちゃんが、楽しそうに笑っていた。
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