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「か、片桐さん。まずは頭を上げようか、うん」
「じゃあ、一緒に行ってくれますか……?」
どうやら私がイエスかノーか答えるまで、頭を上げてくれないらしい。
彼女がうちで働き始めてもう2ヶ月程経つけど、こんなに焦って必死になってる片桐さんを見るのは初めてかもしれない。
……まさか本気で、私を映画に誘ってくれているって事なんだろうか。
「あの、本当に私でいいの?」
念の為もう一度確認してみても、彼女はコクコクと何度も頷いてくれる。
あ、ちょっと今の可愛いな。元々可愛い子であるのは間違いないんだけど。
「……そっか。なら、来週は休み取っておくね」
「えっ……えええ!!いいんですかっ!?」
「いいんですかって。むしろ私の方がいいんですかって感じなんだけど?」
こんな美少女を一日独り占めしてしまって、罰とか当たらないだろうか。
彼女のファンであるうちの常連さんだって、何度も何度もデートに誘っても一度だってOKが貰えないって言うのに。
まぁこれも、店長の特権って事にしておこう。うん。
「それじゃ、集合場所とか待ち合わせ時間は後で決めようか」
「は、はいっ!」
「映画なんてもう何年も見てないから、楽しみだな」
そもそも誰かと出かける事が久しぶりって言うんだから、私は改めてつまらない人生を送ってきたんだなぁとしみじみ思った。
ここ数年、仕事仕事で全く花のない生活を送ってきたわけだし。
たまにはこういうのも良いかもしれない。確かに気分転換は大事だ。
「じゃあ私、そろそろ仕事に戻ります!失礼しますっ!」
多分まだ15分も経ってないと思うんだけど、彼女は勢いよく椅子から立ち上がると小走りでバックヤードから立ち去る。
珍しい、片桐さんがあんなに慌てるだなんて。部屋出る時思いっきり扉に頭ぶつけてたし……。
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