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「お疲れ様でーす。店長、あたし今日は早上がりなんでもう上がらせて頂きますねー」
片桐さんと入れ代わりになるように、今度は咲良ちゃんがバックヤードに顔を覗かせた。
ああそっか。今日咲良ちゃんは朝から入ってるから、もう上がりの時間か。
……裏仕事ばっかりやってると、全然時計を見なくなってしまう。
「あ、はーい。お疲れ様」
「店長もお疲れ様です。……あと今、雛ちゃんがすごい嬉しそうな顔してバックから出てきたんですけど何かあったんですか?」
雛ちゃんというのは、片桐さんの事だ。
名前が雛乃ちゃんだから、うちのバイトの子達からは皆にそう呼ばれてる。
最近ではお客さんもそう呼んでるみたい。
「ああ。来週の日曜日、片桐さんと映画見に行く約束したの」
「……映画!?って、もしかして雛ちゃんが店長を誘ったんですか!?」
「うん。リフレッシュにどうですか?って」
私がそう答えると、咲良ちゃんは暫く口を開けたままポカーンとしていた。
「こ、行動に移すのはっやー…。ついさっきアドバイスしてあげたばっかりなのに……」
「え?何々、どういう事?」
「ああいえ!店長は何も知らなくて大丈夫です!来週のデート楽しんできて下さいねー!」
じゃ、失礼します!だなんて。
凄く気になる笑みを残したまま、バックヤードを後にする咲良ちゃん。
その顔は何だか、面白い悪戯を思い付いた小学生男子みたいだと思った。
「……まぁ、いっか」
誰もいなくなったバックヤードで私は、中断していた作業を再開する。
別に仕事が溜まっているわけではないけれど、少しでも片付けておいて日曜日は目一杯ゆっくりしたい。
久々に誰かと出かけると思うと、何だか少しワクワクしてきて普段よりも作業が捗ってしまった。私は単純だなぁ。
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