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 自分は何事にも動じないタイプだと今まで思っていた。  だが、どうも恋人の存在が絡んでくるとそうもいかないようだ。  私がそれを思い出したのは、彼女から『特別な日』と宣言された数時間後の昼下がり。酒屋の片隅にて、両腕に提がる大量の紙袋の重みをひしひしと感じている時だった。 (おかしい。今日はなにか変だ)  今朝から、ゆづるさんの言う特別が、彼女の親の来訪かもしれないと思うと、いてもたってもいられず、何度彼女に確認を取るべく連絡したか知れない。  だが、仕事中の彼女はこちらの電話になかなか気付いてくれず、ならば、いっそ彼らが来ると仮定して、もてなす準備をすべく買い物に出た。  そして、ふと気付けば、この有り様だ。  あと、これは実に些末な疑問なのだが、今いる酒屋の店主の爺さんが、ここぞとばかりに高い酒ばかり薦めてくるのは何故なのか。  来店した私を見た途端、この調子なのだが、彼には私が一体どんな風に見えているのだろう? (どうも、特別についての文緒のテキトーな予想を聞いてからおかしなこと続きだ)  この、タガが外れたとしか言いようのない異様な量の買い物もそうだし、今日の仕事でも不思議なことは起こった。  文緒の店を出てからは、自宅で仕事に取り組んでいたのだが、何故か午前中に本日中の業務が全て片付いてしまったのだ。  仕事の量と内容は普段通り。  特段急いだわけでもないし、仕事の効率化を図ったわけでもない。  ただ、いつもと違うことがひとつだけあった。  仕事中、つい頭の片隅で、特別な日の意味を考えてしまったり、彼女の親と会った場合の挨拶を幾度となくシミュレートしていたのだ。  で、そういうあれやこれやで悩めば悩む程、何故か仕事はすこぶる順調に進んだ。  結果、本日の業務がとっとと片付いたから、ここぞとはかりに半休を取り、街に赴いたというわけだ。  なんだ?  本当に、今日は何が起こっているのだろう?
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