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Ⅲ 1人の紳士
どのぐらいの時間こうやって昔の事を思い出していたのだろう。
いつの間にかこちらを見ている男性がいる事に全く気付かなかった。
「何をしている?」
声に驚き慌てて前を見る。その容姿を見てアスランは声にならない。聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「っ!えっ…ウソ…?」
黒い髪を後ろに流し、切れ目でキツい目つきだがオニキスの様な美しい瞳。長身で体格が良いが、ブラックのスーツとコートを着ているせいか細身に見える。
(デイビスさんにそっくり…。まさか……エル?)
一瞬慌てたが、2~3回気付かれない様に深呼吸をして冷静さを取り戻し紳士に声をかけた。
「あっ…あの…僕はキャンドル売りで…って言っても、今日で終わりなんですけど…」
「やめるのか?」
「はい。見ての通り全然売れなくて…もう最後だからキャンドル使ってしまおうと思って…」
使ってしまう気まではなかったが、もうキャンドル売りは最後だからとアスランは答えた。
(何動揺してんだ…きっと他人だ。もし、そうだとしてもまさか僕とは気づかない)
アスランは頭に浮かんだ疑念を胸に押し込んだ。
「売れればキャンドル売りを続けられるのか?」
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