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路地裏はガス燈がなく、通路は薄暗い。しばらく歩いていると一際目立つ建物が目に入った。男女の嬌声が聞こえ、香水の香りが鼻をつく。
娼館だ。
初めて見る娼館に足が竦む。母の為にも行かなくちゃと分かっている。行くと決心したのに、足が、心が、全身が先に進むのを拒否している。
すると、1人の男性が声をかけてきた。
「キミどうしたの?女性を買いに来たってワケではなさそうだね?もしかして…売りたいの?俺が買ってあげようか?初めてならちょっと高く買ってあげるよ」
男性はアスランの肩に手をかけ、耳元で囁く。
全身に悪寒が走る。身体が震える。心が凍りつく。
(怖い!怖い!怖い!嫌だ!嫌だ!)
「…ちっ!違います!」
アスランは男性の手を払い、その場から全速力で走り去った。
娼館から家まで休む事なく走る。息が切れる…苦しいが娼館からすぐ離れたい一心で走った。家に着いてドアを閉めた後ズルズルとその場に座り込む。
「怖かった…行くと決めたのに…行けなかった…」
恐怖で震える身体を抱きしめ、必死に震えを抑えようとする。
どのぐらいの時間が経っただろう…
震えが収まり、冷静さを取り戻したアスランはある方法を思いついた。
この方法しか思いつかない…あの人に頼るしかない…
「ごめんなさい…こうするしかもう…」
アスランは夜が明けるまで声を殺して泣き続けた。
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