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本当はこのように身体を買って渡したくはないが、何度理由を聞いても『言えません』の一点張りで教えてくれようとはしなかった。
エルドラは一人残った部屋でアスランから買ったキャンドルに火を灯した。温かい優しく光が部屋に広がる。
キャンドルを見ると思い出すのは『僕を買って下さい!』と言う前の少年の姿…
初めて見かけた時は雪の降る公園でキャンドルの炎に手を翳して微笑んでいた。その姿に目が離せず思わず声をかけた。
会ったその日に『貧しいキャンドル売りを馬鹿にするなら帰って下さい!』と怒られた。
謝った時にふと見せてくれた笑顔に胸が熱くなるのを感じた。
キャンドルを買いに行く度に他愛もない話をする。それが楽しくて嬉しくて堪らなかった。
会えなかった日はどうしたのか不安で心配で路地を遅くまで探した。
やっと会えた時は嬉しくて抱き締めたくなった。
しかし…
『僕を買って下さい!』の一言で何かが崩れた。
抱く度に笑顔が消えていく…どうすればいいか分からずただ抱く事しか出来ない…
明日にはこの関係も終わってしまう…
「明日なんか来なければ良いのに…」
エルドラはキャンドルをそっと吹き消し、温もりの無くなったベッドに横になった。
◇◇◇
エルドラがアールトンに帰る前の最後の夜。アスランに会う最後の夜。
「明日はどうやってアールトンに帰られるんですか?」
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