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結局、売り切れる事は出来ず、前を通り過ぎていく人も少なくなってきてしまった。
(やっぱり無理だった…もう、寒いし限界だ…)
アスランはフードに薄く積もった雪を軽く払い、冷え切った心と身体を引き摺るようにフラフラと家に向かい歩きだした。
途中の公園まで来て、屋根付きのベンチを見つけた。
何となくまっすぐ家に帰る気にはなれず、ベンチに腰を下ろす。
「もう、寒くて限界だ…」
と周りの雪を軽く集め自分の横に小さな山を作り、そこにキャンドルを1本刺した。
持っていたマッチで火をつけると、小さな光が周りを明るくする。せっかくの火が消えない様にと火の近くに手を差し出すと少しだけ温かくなった空気がアスランの手を温めてくれる。
「あったかい…」
少し温まった手にほっとして、少しだけ表情が和らぎ微かに笑顔が見えた。
キャンドルの灯りを眺めていると、ふと懐かしい思い出が浮かんできた。
家族みんなで食べる温かい食事…
燭台に灯された沢山のキャンドル…
キャンドルの灯りの元で読んだ絵本…
そして…
たった1週間だったけれど…とても楽しかった1週間…
初めて会った時のこと…
一緒に本を読んで、外で遊んで…
毎日、夜遅くなるまで一緒に話して、笑った…
ランタンを手にそっと屋敷を抜け出した夜…
夜の庭で見上げた満天の星空…
またあの星空の下で会おうと話した…
あの人との思い出に心が温かくなる感じがした。
でも…
あの時交わした約束は…
もう、守れそうにない…
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