卒業式の朝

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卒業式の朝

 今日は特別な日だ。  新しいスーツも買ったし、ストッキングの予備もある。  なのに鏡の中には、鳥の巣のような頭。スーツに袖を通すと、クローゼットの臭いが染みついていた。  黴臭い。 「ああ、絶対笑われる」  生徒の親御さんの中には、美容師さんもいる。カットだけでも、その人に頼めばよかった。  遅刻はできない。卒業式は9時からだ。そのまえに、式場の準備を済ませなくてはならない。  あわあわと、アパートのドアを開けると、薄暗い。  桜の蕾越しに、曇天が垂れている。  溜め息をつきながら、記憶を遡る。  11か月前の始業式も、暗い曇りの日だった。  中学校の英語教師として3年目。私は初めて、学級担任になった。  しかも中3。  前半は部活、後半は受験と、気の張りつめる最終学年。  さらに、私の受け持つクラスは、恐ろしい異名がつけられていた。 「ウソツキベータ」  ベータ、はB組、から来ているらしい。  あかんべえ、の「べえ」の意味もある。  普通は、2年の担任がそのまま3年も受け持つ。だが、2年B組の担任は、体調を壊し、休職してしまった。  ベテラン教師たちの押し付け合いの末、私にお鉢が回ってきたのである。
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