卒業式の朝

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   見事な演技力と、捨て身の度胸。  B組は、さらに、チームワークが抜群だった、という。  その始業式の日、私は自棄(やけ)な気分で登校し、教壇に立った。 「みなさんを受け持つことになった、来栖(くるす)かすみです。中学校の最後の一年、一緒にがんばりましょう」 「先生、恋人はいますか?」  クラスのリーダー格、(せき)静哉(せいや)が手を挙げる。 「プライベートは秘密です」  ええー、と軽いブーイングが起こり、そこからが酷かった。 「じゃあ、簡単に自己紹介してもらいます。出席順に、名前と一言。秋田くんからお願いします」 「はい」  耳の大きい男の子だ。素直そうな笑顔で、すっくと立ち上がる。 「僕の名前は秘密です。好きな授業は、秘密です」  爆笑が起こった。後ろの子が立ち上がる。 「僕の名前も秘密です」    その後ろ。   「僕の名前も、もちろん、ヒ・ミ・ツ♪」  このままでは、全員、秘密になってしまう。 「ストップ!」  クラスが、しんと静まり返った。大人を値踏みする、嫌な視線が体中に突き刺さる。     
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