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「先生が悪かった。いい? 恋人がいるかと聞かれて、『秘密』と答える人にはね、恋人はいないのよ。勉強になった? じゃあ、最初からお願いします」
今なら言える。自棄っぱちは、ほどほどに。
翌日から、私は『処女のカス子』と陰で囁かれることになった。
処女かどうかは、恋人の有無と関係ないじゃないか。
唇を尖らせながらも、子どもたちの戯言に耐えたが、それ以上にキツかったのは職員室の中。
早速、配置ミスに気付いたベテラン勢から、ありがたいご忠告が五月雨となって降り注ぎ、私は迷走した。
怒ってみたり機嫌をとったり、と対応が揺れてしまったのだ。
当然、生徒たちからの信頼は得られなかった。
☆
学校に着いたら、まずは体育館でくす玉の取り付けだ。
昨日のうちにやっておけばいいのに、と溜息が出る。
校門には、卒業式の看板がすでに設置されている。
冷え切った暗い廊下を、くす玉、くす玉、と呟きながら、職員室に駆け込む。
まだ誰の姿もない。
☆
6月初旬の放課後、職員室の電話が鳴った。
「来栖センセ、大変」
豊満なバストを揺らし、同期の咲田先生が受話器を渡す。
相手は学校の近所のスーパー。
うちの生徒が万引きをしたというのだ。
しかも、B組の生徒たちが相次いで押し掛け、現行犯で捕まった生徒をかばっているという。
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