プロローグ

2/5
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
他人を人間だと思ったことは、一度も無い。 正確にはかつては僕も人を人だと思って接してきた。しかし、ある日を境にそんな偽善めいたことは、信じなくなったのだ。 それは、子供が粋がって”他人なんて信じられない”と言ってのけるような、すねた理屈では無く、僕が僕自身の体験を経て獲得した、ある種の教訓なのである。 例えば飼っている犬に、何の理由も無く噛みつかれたとして、人に暴力を振るってはいけないなんて、そんな説教を犬にする人はいないだろう。 犬は、ただ生理的な反応に従って、しかるべき反応をしただけで、そこに、確固たる理由なんて無いのだから。 それと同じように、他人に裏切られたり酷いことをされたからと言って、理由なんて考えない方が良い。理由を聞いたところで、犬猫ほど反射的で無いにしろ、かっとなって、とか、なんとなくイライラして、とか、そんな理由にならない理由が返ってくるのが関の山だ。 私はこう思って、だからこういう行動に出た。今後は、このようなことが起こらないように、あなたにもこうしてほしい。そんな風に建設的な言動の出来る人間が、この世の中に一体何人いるというのか。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!