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ナメクジは壁を這って下に向かい、床に到達していた。
これは……、千載一遇のチャンスなのでは。
上のほうなら、落ちてくる可能性もある。
だが、下のほうにいるのなら、話は別である。
私は意を決して、二本の歯ブラシの柄でナメクジをつまみあげ、熱湯を張った桶に放り入れる。
少しずつ縮んでいくナメクジの姿を見て、私は勝利を確信して湯船に浸かる。
ああ、勝負の後のお風呂は最高だ。
私は決めたことがある。
あの桶と、あの歯ブラシには、今後一切触れもしないし使いもしない。
幸福に浸る私の目の前で、何か黒いものがうごめく。
目を凝らしてよく見ると、それは手のひらほどの大きさのクモだった。
この状況下で、悲鳴をあげない人間はいるのだろうか。
――もしいるとしたら、その人とは仲良くなれそうにない。
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