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「僕はその……名刺にある通り、小さな会社の社長で」
「ふうん」
「従業員は二十人もいないし、業績もさほど良くなかったんだけど、最近は債務超過で危うく不渡りが出そうになるくらいで」
「……」
「えっと、つまり」
「倒産寸前五秒前、みたいな?」
「――っ」
「あ、抉った」
心月が深くうなだれる。マジごめん、とさすがに伊月が反省した。
本当はいけないけれど、ドリンクバーでホットコーヒーを入れ、心月の前に差し出す。砂糖とミルクもつけてみた。温かい湯気と香りに誘われて、ミルクだけを入れて、心月がコーヒーをすすった。
「まあそんな感じで。だから今日は……今日こそは資金調達とか、新規業務とか……多方面にアポを取って、一つでも成果を上げないといけない日だったんだ」
すでに銀行からの期限が切られていた。最後通牒を突きつけられたも同然だ。
なのに。
「夜明けと同時くらいに目は覚めた。でも、支度だって終わっていたのに――目の前が真っ暗で、動けなかった。で、気づいたら遅刻の時間だった」
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