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走って、走って。転びそうになりながらも、道行くバスに追い越されて、バス停に止まったのさえ視界に入った。待ってくれと叫び、空しく置いて行かれた、はずだった。
「でも、奇跡が起きて」
信じられなかった。バスの中でも、相手先の自社ビルのエントランスでも、まだどこかが呆然としていた。
ふうん、と伊月が相槌を打つ。
「で、なんとかなったの?」
「……いいや」
ゆるく、首を振った。
提案は厳しく断られた。大手といえども、決して楽観視できないのが今の時代だと。業務を依頼するメリットは多くないと――はっきりと。
「でも、諦めきれなくて。気づいたら、さっきの不思議な体験を話していたんだ」
「えっ」
「どうかしていたと、自分でも思うよ。でも、とにかく必死だった。ここまでこれたのは奇跡で、だから簡単に引き下がれないんですって」
乗り遅れたバス。戻ってきたバス。揺られて到着した自分。
「でも、ただの妄想って」
「一蹴される、どころか相手にもされなかった、んだけど」
決定は覆らなかった。黙って席を立ち、去っていった自分の元・ビジネスパートナーたち。
その中で。
「一人だけ……声をかけてくれたんだ。にっこり笑って――『君のひたむきな熱意と運の強さは、とても良く分かりました』って」
「どー考えても皮肉じゃん?」
「そうじゃない、って、と思いたいけど……」
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