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ふぁああ、と伊月はあくびした。
午後五時。部活もなく、授業は例によって眠かった。いつもと変わらない、日常。
朝起きて、歯を磨いて朝ごはん。うっかりテレビの占いを聞き逃して、戻らないかと試していたら遅刻の時間だった。慌てて誰もいない家の鍵をかけ、小走りで走ったけど半分もいかないうちにお腹が痛くなってやめてしまった。
気合の入ったサラリーマンはそんな伊月を追い越していったけれど。
高校のチャイムの幻聴は、二十分かかる通学路の半ばで聞いた。なんでチャリ通禁止なのか、是非教えてほしい。歩くのめんどい。
途中のバス停で立っていた人を見かけたのでバスを戻して、ホームルームの終わった教室に滑り込んだ。隣の席の新藤みかに呆れながら「ちのちゃん、五月病?」とグサッと刺され、でも休み時間には昨日のドラマの話とか、別の高校にいる彼氏の話とかを聞いて盛り上がった。離れ離れになって二か月だけど、とりあえず今は順調らしい。
購買の競争は最初から参戦したにも関わらず、ついでにちょっと戻してみても惨敗だった。メロンパンもカツサンドも未入手、残ったのはコッペパンのみ。
しょうがないので抜け出してコンビニに行ったら、運悪く担任に見つかって生徒指導室行きになった。別に叱られはしなかったけど、見たからには指導するのが教師の務めらしい。
高校生の食欲を前に校則を出したって無駄なのは向こうだって知っているのだ。
午後はマラソンに古典とダブルパンチ。放課後は前回の英単語のテストが振るわなかったので補習だ。残念ながら、高性能な頭脳は持ち合わせがない。あるのは役に立たない特技くらいだ。
――思い返すと、そんなにいい一日でもない。
というのが、出した伊月の結論だった。
なぜこんな風に振り返ってしまったかというと。
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